個人事業主が法人化する際に注意すべきポイント
今回は、法人化(法人成)する際に注意すべきポイントについて個人事業との違いに注目しながら、ブログを書いていきます。
1、法人化すると社会保険(厚生年金・健康保険)が強制加入となる
法人の資金繰りの悩みの種になるものとして、いちばんに社会保険料があげられると思います。法人化すると社長一人でも給与を支払っている限り、強制加入となります。今までは、本来加入しなければならない法人も加入していないケースもありましたが、今後はマイナンバー情報が役所間で共有されることになり、すべての法人が加入する形になりそうです。
個人事業の場合、5人以上の従業員がいると社会保険について強制加入となりますが、4人以下の場合には、加入義務はありません。また、理美容室、飲食店、税理士事務所等の士業事務所については、人数に関わらず、社会保険の加入義務がありません。
ちなみに、労働保険(雇用保険・労災保険)については、法人であっても個人事業であっても違いはなく、従業員を雇っている場合には短時間のアルバイトの方でも加入の必要があります。雇用保険については、週20時間以上勤務している方について加入義務が発生します。ご自身(個人事業の事業主及び法人の代表取締役)は、いずれの場合でも労働保険の加入は出来ません。(労災保険に特別加入する場合を除く)
2、消費税の納税義務
消費税については、原則として2年間(場合によっては1年間になります)免税事業者になります。個人事業として2年間行った後に、法人化すると合計4年間消費税の納税義務を免除されることになります。この仕組みを上手に利用してしかるべきタイミングで法人化するという考え方があります。法人化する際は、資本金を1000万円未満にしないと、法人設立第1期目から消費税の納税義務者となりますので、ご注意ください。
3、給与について
法人の場合、ご自身の給与について役員報酬として支払うことが可能ですが、個人事業の場合には、個人事業主の給与という概念はなく、売上から経費を引いた残りがご自身の取り分という形になります。法人の場合、役員給与をもらった社長さんにとっては給与所得となり、給与所得控除をうけることができますので、その分有利となります。
また、ご親族の給与についてですが、法人の場合にはご親族ではない他の従業員の方と同様に給与として支給することができますし、役員にすることも可能です。個人事業の場合には、青色事業専従者給与として経費計上が可能となりますが、「事前の届出が必要であること」「原則として未払では経費計上できないこと」「専従が要件であるため他の収入がある場合には認められないこと」「扶養控除、配偶者控除がみとめられないこと」などの注意点があり、一定のハードルがあります。
4、生命保険の活用
法人の場合には、生命保険を活用することで、その支払った保険料の全部または一部の損金計上が認められています。法人名義の保険に加入することで、将来に備えることができます。一方、個人事業の場合には、生命保険料を必要経費に算入することはできません。保険料でも損害保険料は事業に関連するものであれば、法人・個人事業どちらの場合でも経費にすることができます。
5、法人税又は所得税の課税の違い
まず、法人の場合には、均等割という地方税(都道府県民税及び市町村民税)があり、たとえ赤字でも最低年間7万円の支払いが発生します。個人事業の場合には、7万円の均等割は発生しません。
法人の場合でも個人事業の場合でも赤字の繰り越し(将来の黒字との相殺)ができますが、その期間に違いがあります。法人の場合には10年間、個人事業の場合には3年間となります。これを繰越欠損金と言います。
法人税と所得税の税率の違いもあります。あまり利益(所得)が出ていない場合には、所得税の方が税率が低く、所得がたくさん出ている場合には、所得税の方が税率が高くなるイメージです。
6、経費の概念について
法人に比べて個人事業の経費の概念は狭くなっています。たとえば、交際費に関しては、法人ですと、個人的な交際費はもちろん経費にはなりませんが、事業に関連していると認められるものは経費となります。個人事業の場合には、事業に関連しているだけでは必要経費とは認められず、「売上に直接要した費用」であることが求められます。同業者団体の会合の会費などは、法人と個人事業で経費になるかどうかに差異が出ますので注意が必要です。上記の生命保険料が経費になるかどうかの違いも大きなところです。
7、退職金
法人の場合には、役員に対して給与が認められるのと同様に退職金も認められています。退職金は税制上、給与に比べ控除が多く認められており、また社会保険もかかりませんので、退職金として計上できるかどうかが注目されます。個人事業の場合には、ご自身に対して給与が経費にならないのと同様に退職金も経費にはできません。但し、小規模企業共済に加入することで、経費ではありませんが支払った金額全額が所得控除の対象になる「社会保険料控除」が認められており、退職時にもらう共済金については退職所得として取り扱うことができるようになっています。
8、税理士報酬
一般的に、法人の場合には、個人事業の場合にくらべて高額になります。これは、決算書類の枚数からみても明らかなのですが、個人事業の場合には、確定申告書と青色決算書の6枚くらいであるのに対して、法人の場合には、法人税申告書(別表)、決算報告書、勘定科目内訳書(科目明細)、法人事業概況説明書、都道府県民税及び事業税申告書、市町村民税申告書と多岐にわたり、枚数にして少なくとも30枚以上になります。そういった税理士の手間も考慮して個人事業に比べて法人の方が税理士報酬は高くなります。
9、登記費用
個人事業の場合には、法務局への届出というものは発生しませんが、法人の場合には法務局への届出が必要となり、一般的に、株式会社を作る場合には30万円弱の費用が掛かります。法人の設立はしたいが、設立費用を抑えたい場合には、合同会社をつくることも検討すべきでしょう。定款認証の必要がなく、株式会社に比べて低額で会社をつくることができます。
10、代表者の呼称
法人の場合には、代表者になれば株式会社の場合「代表取締役」「社長」と呼ばれることになります。合同会社の場合には「代表社員」となります。個人事業の場合には、「代表」にとどまることになります。
そのほかにもありますが、今回は代表的な10つのポイントをご紹介させていただきました。
(2020年11月15日)
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